読書感想文 『結び目』 内池陽奈(著)
浪人中の青年、就職活動中の大学生、通院するおばあさん、大学で教鞭を取る先生、喫茶店を切り盛りする若い店長。その喫茶店で彼ら彼女らの人生が交錯する。
堅実に人々のドラマを紡ぎ出した現代小説です。エキセントリックな登場人物、アッと驚くような展開、奇想天外なシチュエーションなどがもてはやされる現代小説界。そんな商業本に疲れたあなた(わたし)、この小説はそんなあなた(わたし)にピッタリです。
情報に溢れる現代社会では、強い刺激で人々の耳目を集めようとします。SNSしかり、ユーチューブ、アプリ、そして本も。書店に並ぶ本も浮足立ったタイトルのものばかりが目に付きますよね。いよいよ小説も一過性の消費物に成り果てたのかと寂しく感じていたとき、この本が一服の清涼剤となってくれました。
ごく普通の人が、ごく普通の悩みを抱え、真剣に生きていこうとする、地味だけれど真摯な小説がわたしは大好きです。もちろん商業本の中にもそういう本はあると思います。でも売りにくいんでしょうね。だからそういうニッチな分野こそ個人出版の出番です。
喫茶店という場所で人々の人生が交錯し、紐が絡まるように影響し合う、ステキなストーリーでした。タイトル「結び目」は喫茶店のことを示しているのですね。おもしろかったです。
0コメント