読書感想文 『アーティストになれなかった君へ』 樟本泰治(著)

 売れっ子アーティスト、大手企業のデザイナー、バイトで生活する売れない画家、高校の美術教師。四人は美術系大学時代のバンド仲間だった。彼らは、自分なりに美術に向き合い生きてきた。葬式で久しぶりに会った四人は創作について思いをぶつけ合い、また人生が動き出す。


 表題の短編と、『静かに黒い雪が降る』という長編が収録されています。いずれも美術を背景にしたストーリーになります。短編のほうは、もう若くないおじさん四人が久しぶりに会ったことで創作に向き合う、という内容、長編のほうは、美術予備校を舞台にした大人のラブストーリーです。

 スキルが高ければ良いものができる、と考えていた時期がわたしにもありました(笑)。見たものを正確に表出させたものが良いものか、と言われれば、そうじゃない、というのがどうやら創作の世界なんですよね。何が正解かわからない中でもがき苦しみ、自分自身の表現方法を確立していく、その過程はひとそれぞれあって、早く結果が出る人がいれば、なかなか出ない人もいるわけです。結果が出てもそれは結局のところ通過点に過ぎず、理想には永遠に到達できない、というのが創作のおもしろさであり、残酷なところでもあると思います。万が一、理想に到達してしまったとしたら? それが表題の短編のテーマなようにも思いました。

 長編のほうは、漫画『ブルーピリオド』的世界におっさんを放り込んだ感じで、創作に悩むところは薄めですが、美術の世界ってそうなんだ、と楽しめました。個人的には、創作葛藤濃い目の短編のほうが好みかな。おもしろかったです。

エンタングルメント・マインド(Entanglement Mind)

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