読書感想文 『山田池のヌシ』大海原 琉葵 著

 小学三年生のフミヤと同級生の蟹田君は、隣町にある山田池で巨大な魚を目撃する。そのヌシを釣り上げようと一学年上の豆タンクとともに山田池に向かうが、別の小学生集団と衝突してしまう。ヌシをあきらめきれない三人は、その小学生集団に戦いを挑む……

 フミヤの一人称で物語は進みます。小学生目線で語られ、すごく懐かしい思いで読みました。登場人物は憎めない悪ガキたちばかりで、ああそうそうこんな感じだったなと自分が小学生だったときのことを思い出しました。

 最初仲たがいしていたフミヤと蟹田君が知らぬ間に仲良しになるところなどは本当に自然な感じで、小学生のころの純粋なこころをよく描き出していると思います。そして上級生(蟹田君の兄)の豆タンクと釣りに行ったりクワガタ取りに行ったり、背伸びをしたい小学生の様子をコメディータッチですがリアルに描いています。わたしも釣りはしましたが海釣りで、本作のバス釣りなどはやったことがありません。ですが、懐かしいと感じられるのは、この本が小学生のときの心情を上手に引き出してくれたからでしょう。

 隣町の小学生軍団との戦争という刺激的な体験や、ヌシ釣りのような冒険、大人との対決、これらは子どもの時に一度は通る道です。わたしも友だちと大規模な秘密基地を何か月もかけて作って怒られたことを思い出しました。

 最終的には隣町の小学生軍団リーダーと仲直りして感動のラストを迎えます。すごくあっさりした最後でしたので、もう少し余韻を残すような終わり方でも良かった気がします。

 最後に近づくにつれ、夏休みが終わってしまうような、読み終わりたくないという気持ちで一杯になりました。井上陽水の『少年時代』の歌が頭に流れました。

 誤解を恐れずに例えると、個人的に本作はKDP版スタンドバイミーに位置付けたいと思います。ほめすぎかな? そのくらいおもしろく、子どものときの冒険・葛藤・成長を思い出しました。


エンタングルメント・マインド(Entanglement Mind)

近未来SF小説『エンタングルメント・マインド』シリーズの特設サイトです!

0コメント

  • 1000 / 1000