読書感想文 『日銀特務室FR班: ― 五月の六日間 ―』本間舜久 著

 ビルから千数百万円もの一万円札をばらまいた男。その紙幣はSに感染していた。その目的を探るべく、日銀内に密かに存在するFR班が動き出す。裏では世界を危険に陥れようとする陰謀が進んでいた。

 紙幣にはマイナスの思念(S)が感染するという基本設定が秀逸です。国際テロなど凶悪な犯罪に使われた紙幣には強烈なSが染み付き、正常な紙幣にもSを感染させていきます。Sに感染した紙幣は人間にも悪影響を与え、過去にはアヘン戦争など世界的な惨禍を引き起こしたと説明します。Sと世界史を上手に結び付け、裏社会のリアリティを出すことに成功しています。うまい世界観です。

 Sが市場に出回る前に浄化するのがIMFrと連携する日銀特務室FRチームです。彼らの捜査手法は、紙幣をサイコメトリーするというオカルト色の強い方法で、頭に浮かぶイメージを追って敵を追い詰めていきます。

 文体は三人称のハードボイルド寄りですが、地の文に心情も挟まれ感情移入がしやすいです。句点が多く入る文章のため息継ぎのリズムが自分とは合いませんでしたが、内容がおもしろかったので、引っ掛かりながらも読み進めることができました。中盤からは少し読みやすくなってきて、作者の筆が乗っているなと感じました。

 クライマックスでは意外な犯人が判明し、その背景も含めてひっくり返してくれます。


 個人的にはオカルト色弱めのストーリーが好みですが、本作はおもしろく読みました。この設定でオカルトなしのストーリーも読んでみたいです。

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