読書感想文 『螺旋階段の行方 The future of the hominization』沢川沙樹 著

 日本で反政府組織によるクーデター(帝都維新)が成功して1年後。そのクーデターの一員だった私立探偵 神代怜に、かつての恋人とうり二つの女性からクロノイドを殺してほしいという依頼が入る。断り続ける神代は、かつての仲間たちとの邂逅によってクロノイドとの戦いに戻っていく。

 第二次世界大戦で枢軸国が連合国に勝ち、大日本帝国は中国(満州)と西アメリカを手中に収めている世界、その現代が舞台のハードボイルドSF小説。帝都東京はクーデターでメチャクチャになり出入りが厳しく制限され、しかもクロノイドがあちこちに潜んでいるという世紀末な世界が舞台です。クロノイドとは遺伝子制御されたクローン人間のことで、生身の人間より圧倒的な能力を持っています。その彼らが人間になりすましているのです。人間とクローン、クロノイドに違いはあるのか? という問いもこの本のテーマなんですね。

 主人公の神代は、過去を見つめ直すために再度クロノイドとの戦いに挑むわけですが、そこに至るまで、ずっと同じような行動、同じような思考をグルグルと続けます。はっきりしない神代にやきもきしましたが、これもタイトルである螺旋階段を表しているのでしょう。

 この本では、主軸のストーリーの最中に夢やフラッシュバックで頻繁に過去のエピソードが差し込まれる回想が多用されています。現代と過去のエピソードを行ったり来たりするわけですが、わかりにくいということはありませんでした。作者の頭の中に世界観がしっかり構築されているからでしょう。またこれによって神代や周辺人物の過去や謎をコンスタントに開示でき物語に厚みをもたせています。

 ラストはハードボイルドらしくてカッコいいのですが、多くの謎は残ったままでした。後書きによると続編、もしくは前日譚も構想があるそうです。期待したいです。


 あと、結構な長編ですので読み切るのに苦労する人もいるかもしれません。この3分の2くらいの分量ですと手に取りやすいなと思いました。

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