読書感想文 『世界樹は暗き旋律のほとりに』藤あさや 著

 アフリカから生えている地球規模の巨大な樹、世界樹。その枝は宇宙まで伸び、地球の何倍もの大きさのループを描いている。いつから生えているのか? どうやって生えたのか? 19世紀初頭、世界樹の調査に13歳の化石採集者メアリ・アニングが向かった。その100年後、世界樹の枝の上には星間列車が建設されるまでになった。しかしテロにより……

 世界樹という宇宙空間まで伸びる樹が現実に生えている平行世界が舞台の本格SF小説です。三連作の最初の物語は地質学+古生物学、二つ目は物理学、三つめは統合情報理論(+オカルティックな雰囲気)と、それぞれが知的好奇心をビンビン刺激してくれます。また実在の人物、アニングやニュートンなどが登場するのもうれしいところです。

 本作のように確固とした物理学に裏打ちされた本格的なSF(サイエンス・フィクション)は大好きです。つい検算してしまいそうになりましたが、本作のスケールはわたしの能力を超えていましたのでストーリーに身を任せました(笑)。わたしレベルの低脳がこの本をしっかり堪能するためには図解があったほうがいいなと思いましたが、気持ちよく星間旅行できました。

 個人的に作者の矜持を感じたのは、世界樹の軌道は「唯一の解」「(予想と)一致した」等の描写です。世界樹の軌道は、作者にとってピタゴラスの定理の証明のような数学的な確実さであり、ガリレオの法則の立証のような物理学的な確実さなのでしょう。地球の重力圏を脱出する方法についての作者の深い考察が楕円軌道リングという構造に帰結し、それを実現するための方策を探った思考実験が本作につながったことが良くわかりました。

 たいへん勉強になりました。おもしろかったです。NHKあたりがドラマ化してくれないかな。

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