読書感想文 『トライメライ - 夢魔のイデア - (StarGazer)』hoshimi12 著
かつて絵本作家になるという夢を持っていた僕は、現実に疲弊し地元に戻ってきた。そこで僕は思い出の少女と再会する。その少女は何かと闘っていた。実は少女たちが抱える問題と僕の夢はつながっていたのだ。彼女たちを救うために、僕は夢を投げ出すことができるのだろうか?
この本では、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)とBMI(ブレインマシンインターフェイス)が連成することで想念が現実感をもって目の前に現れるというデジタルデバイスが登場します。これはもう少しすれば本当に実現しそうな気がします。この本のようなムフフなことができるかもと思うと今から楽しみです(笑)。
内容はエロティック(ソフト)ではありますが、テーマはかなり考えさせられるものです。創造の根源にあるものは何か、ということを主人公はずっと問い続けていきます。思い出の少女を救うことよりも、わたしはむしろ主人公の現実と夢の折り合いや創作への向き合いかたがテーマなのではないかと思いました。ラストで主人公なりの結論が示され、なるほどなあと感心しました。
文章はワンセンテンスが短く、しかもほとんどが一文で改行される詩のような様式です。しかしその文は詩のようにあいまいで弱いものではなく、明確な意図を持った簡潔で強い言葉をつづっています。例えが古くて恐縮ですが、文章はC言語ではなくアセンブリで、一文一文がニモニックという感じ。そのおかげで、文は脳内でさっとシーンに変換されます。比喩が最小限のため不足しがちな情景は、頻繁に差し込まれるイラストで強力に補間されます。言葉を情景に変換する(空想する)ことに脳力をあまり使わなくて済むため、この本は読むときに脳にかかる負荷が低いのです。これは新しい読書体験でした。
長編ですがすんなり読めました。たいへんおもしろかったです。
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