読書感想文 『PCM』 月狂四郎(著)
風俗嬢のヒモ大月五郎は、パチンコで負け続ける日々を送っていた。ある日、自宅にヤクザがやってきて、落とし前をつけろと難癖をつけてきた。風俗嬢の理央がクスリを売っていたというのだ。大月は、半ば拉致られて地下格闘技大会に出場する羽目になる。
PCMとはパチンコ(PaChinko)負け(Make)の略のこと。主人公の大月五郎の自虐の言葉です。この小説は、実家には居場所がなく、得意のボクシングでも負け、転がり込んだ先の風俗嬢(理央)のところでもパチンコしかやることがなくてしかも負け続けるという、絵にかいたようなアウトローの彼が、地下格闘技トーナメント(主にボクシング)で勝ち抜いていくというサクセス物語であり、かつ、人生の地べたを這っていた彼が、このトーナメントを通して人生を見つめ直していく救済の物語でもあります。
エンタメの王道をいくストーリーでワクワクしながら読み進めることができました。試合相手も一癖も二癖もあるアウトローばかりで、実はいろいろあってここにいるのよ、という背景で泣かせにくるところもグッドです。元ボクサーだった作者ならではの、リアルな試合シーンも見所のひとつになっています。最初から最後までストーリーはわかりやすく、文章もさっぱりとして読みやすいので、こういう本が万人にウケるんだろうなと思いながら読みました。
さて、みなさんは黙読しているとき、文章の背景では何が聞こえるでしょうか? わたしは、その本のストーリーラインや文体によって様々な音が聞こえてきます。クルマのロードノイズだったり、街の雑踏だったり、深海の静けさだったり。この本を黙読していたときに聞こえてきたのは、リング外の喧噪でした。バックグラウンドで聞こえてくる若者の喧噪が逆に心地良く、集中して読めました。おもしろかったです。
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