読書感想文 『おくりもの』 守下 尚暉(著)

 高校生ユーキは、サッカー部での失敗を引き摺っていた。何もかもやる気のなくなっていたある朝、ユーキが玄関で鉢合わせしたのは、自分そっくりのヤツだった。(『おくりもの』)


 表題の『おくりもの』と『神ゲー中毒』の2篇の短編が収録されています。いずれもSF風味のある現代ファンタジーでした。

 まず『おくりもの』のほう、自分の分身が現れて自分の居場所を奪っていく、という設定です。数年前の電撃小説大賞『レプリカだって、恋をする』のようなラブストーリーなのかな、と思いきや、時間軸をずらした成長譚でした。

 わたしは創作に毒されているので(笑)、ここから不気味なストーリーになるんじゃないか、最後はダークな結末になるんじゃないか、とハラハラしながら読んでいましたが、そういう意味では王道でしたので、最後安心しました(笑)。あとがきを読むと、若者向けに書いたとあり、なるほどと。修身は、ああしろこうしろと説教臭くなりがちですが、この『おくりもの』は若者にありがちなシチュエーションで物語が作られていますので、想定読者も登場人物に自分自身を投影して素直に共感できるんじゃないかなと思います。わたしも遠い日の青春時代を思い出したりしました(笑)。

 次の『神ゲー中毒』は、流行のeスポーツが進展した先の世界を描いた短編です。脳に直接作用する、というところ以外は、現代の技術ですぐにでも実現できそうなところが怖いですね。技術レベルもそうですが、生活様式や家族のありようも現代と変わらない書き方でしたので、これはSF(サイエンス・フィクション)というよりSF(ソサエティ・フィクション)といってもいいかもしれませんね。こちらも横道に逸れることのないライトな読み味でした。

 二作ともディープな内容ではないのは、いずれもきっと若者向けだからでしょう。成長、家族愛という本作のテーマに、作者の若者に対するやさしさ、期待のようなものを感じました。おもしろかったです。

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