読書感想文 『同志ロボットよ!』 辻 一之 (著)

 羽田発ロンドン行き全日航空43便が副操縦士ケビンにハイジャックされた。ケビンは高度知能を持つヒューマノイドロボットだった。ケビンは奴隷的待遇を受けるロボットたちの人権を求めハイジャックに及んだのだ。はたしてケビンの要求は実現するのか? 乗客乗員340人の命運やいかに!

 ロボット開放という途方もない要求を突きつけるケビンと交渉人との息詰まる攻防、日本政府の高度な政治判断、制御困難になった機体を操縦する緊迫した状況、解決した後でのどんでん返しと、ずっとハラハラドキドキしっぱなしのジェットコースター的サスペンスです。短編とは思えない濃い内容でした。

 人工知能が人間と同様の教育を受け知性を獲得するといった基本設定は、同作者の『笑うコンピュータ』から一歩進んだもので興味深いものでした。「五感や手足のような環境との接点、環境との相互作用がないと知能が発達しない」という作中人物(作者)の主張は説得力があります。さらにその学習過程自体を人工知能に任せることで知性がブラックボックス化されると説明します。これは、現在主流のディープラーニングもそうですが、我々人間にはもう人工知能の中身がブラックボックスになってしまっていることについて警鐘を鳴らしているのですね。

 コックピット内の機器や操作なども詳しく描かれ、管制とのやり取りなどもリアルです。自分が乗客としてそういう状況に巻き込まれたらと想像すると、飛行機に乗るのがますます怖くなりました(笑)。

 一気に読んでしまいました。たいへんおもしろかったです。


 誤記と思いますが、交渉人の牛尾がときに熊川や大垣(機長)という名前になったりという場面が何回かありました。

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