読書感想文 『脳科学・宇宙論・量子力学SF短編集』 中七七三 (著)

 実在世界の人間とサイバー空間に移住した人間との交流を描いたお話や、死んだ母の記憶データから人工知能として蘇った母との関係を描いたお話など、SF4編が収録された短編集。

 人間の意識をデジタルに移し替えると何が起きるのか? という問いに対する作者の思考実験の結果がこの短編小説になったように思います。人間が人間を人間たらしめているのは何かということを突き詰めて考えていこうとする意図を感じました。

『黄昏の渚は意味なき追憶を永遠へと変える』では、作者は作中人物の口を借りて「意識は永遠に死を迎えない」と言います。この悟りにも似た結論は、いわゆる人間原理ともいえるものです。宇宙が存在している理由を人間の意識による観測に求めるという理論ですね。理論物理学者マックス・テグマークは、この原理が正しいのであれば、どんなことがあっても死なない自分を観測することができると言っています(サイエンス番組『モーガン・フリーマン 時空を超えて』よりですが、かなり意訳あり)。

『ココニヰル』は妻の意識障害を電子デバイスを脳に埋め込んで治すというお話ですが、実際にあった脳治療のロボトミー手術を思い起こさせる少しホラーテイストに感じました。なおロボトミーを知らない人は検索しないほうがいいです。特にロボトミー殺人事件なんかは下手なホラー小説より後味悪いですから。このお話は全然そんなことはなくて楽しめましたから良かったです。

 この本は全般にサイエンスというよりフィロソフィーの趣の強い内容で、読み味は静かでゆったりとしていてハラハラドキドキな要素はありません。ですが、考えさせることが多くあっておもしろかったです。

エンタングルメント・マインド(Entanglement Mind)

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