読書感想文 『エスケイプ・フロム・マイセルフ』 ヒダカ コトリ (著)
観劇の途中に現れた天狗のような影。突然その黒い影に追われることになる青年は、暮れていく街を一睡もせず駆け抜けていく。逃げ続けるうちに、犬と少女が彼の逃避行に参加する。わけもわからず駆け続ける二人+一匹は、よくわからない共感を抱いていく。
主人公は、影に立ち向かうのではなく逃げるという選択をしました。ひたすら黒い影から逃げます。その黒い影が何か? わかっていて目を背けているのかもしれません。ですが逃げるということを、これほど肯定的に感じたことはありません。
狂人と常人は紙一重であり、誰しも狂人になり得る素質を持っています。その境目となるのは、ほんの少しのきっかけだと思います。わたしたちも狂人となったことに気付いておらず、自分は真っ当でおかしいのは周囲と考えているのかもしれません。周囲を矯正せねばならぬという偏執に囚われていないと自分は言い切れるでしょうか? 断言できないことに対して逃げるという選択ができるでしょうか?
わたしは取り留めもなくそんなことを考えながらこの本を読みました。
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