読書感想文 『ナミウラ』 敷島 システム(著)
その青年は貧しかった。彼は、化学工場で働いたあと、皿洗いのバイトを掛け持ちしてなんとか生きていた。そんな彼の唯一の楽しみは、本屋で画集を立ち読みすること。彼が北斎の画集を眺めていると、後ろから大人の女性が話しかけてきた。
謎を解くお話ならミステリ、息もつかせぬ展開ならサスペンス、社会問題を提起するなら社会派、など、その内容によって小説はおおよそ分類できるのですが、さて本作はどのカテゴリに類するのか、読み終わった今、悩んでいます。
冒頭は、ワーキングプアの青年が明日への希望を持ってその境遇に静かに抗っているシーンが続き、社会派短編なんだな、と思いながら読み始めますと、次に、見知らぬ美女と出会い誘われる展開になり、なんだボーミーツガールじゃん、と思い直したところ、話は変な方向へ転がり始め、もしかしてサスペンスか……、とドキドキしだしたら、一気に場面が変わって探偵と警察がでてきて、あれ? ミステリだっけ? と混乱したところで、ミステリらしからぬ感じのラストになる、というお話でした。とはいえ、展開が早くて読みやすいので、一気読みでした。
カテゴライズは難しいですが、本作の根底にあるのは、満ち足りぬ思い、なんだろうなと感じました。ワーキングプアの青年も、彼を誘った美女も、それぞれ境遇に差はあれど、そこから脱しようともがいていて、いつかどこかで何かの歯車がかみ合って、今の境遇からスッと抜け出せるのではないか、と願っている、そういう想いがヒシヒシと伝わってきました。結末は少し悲しかったですが、おもしろかったです。
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