読書感想文 『最後の一葉』 下村 芳男 (著)
元禄15年12月、赤穂浪士四十七士による吉良邸討ち入り。吉良上野介の首級を挙げたこの事件に参加しながら、ただ一人切腹を免れた寺坂吉右衛門のその後を描いた時代小説。
年末時代劇でおなじみの忠臣蔵で必ず描かれるのが、この寺坂吉右衛門の件です。なんといっても、四十七人で討ち入りしておきながら切腹したのは四十六人で残り一人はどうなっちゃったの? というわけですから描かざるをえません。大抵は、大石の密命を帯びて消えたとする描かれ方をしており、この本も基本はそのストーリーです。
江戸時代、幕府は街道を往来する人の出入りを厳しく管理しており、要所には関所がおかれていました。追手が掛かっていると関所で捕まります。寺坂吉右衛門がどうやって関所を破るか。それがこの本のだいご味です。多少偶然が重なる気がしますが、それも理由があり……。
旅先で出会った人たち(庄屋の娘や、山賊に追いはぎされた亭主など)との交流もありますが、まさしく一期一会のさっぱりした描き方でした。え?この場面はこれ以上膨らまないの? と思ってしまうわたしには短編は書けないなと思いました。
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