読書感想文 『駆け出しミステリー作家と三人のおかしな女たち』 和泉 綾透 (著)
あるミステリ雑誌の奨励賞を受賞した大学生の都並大祐は、担当編集の押しに負けて、気の進まない新作の構想を練り始める。その彼にちょっと変わった三人の女子大生が絡んでくる。彼の新作は完成するのだろうか?
少しとぼけた主人公の彼と、それぞれキャラが立った女子大生三人(+女性編集)とのライトでエッチな関係性がおかしくもほっとする短編です。そのストーリーも驚くべきもので、ミステリを構想しながらその犯人を捜すというストーリーでありながら、ラストは『〇〇〇〇〇殺し』になるという、なにこれすごい!というミステリでもあります。
主人公が述懐するようにちょっとわかりずらいところもありますが、読み直してみるとそれも仕掛けなんだと思いました。
このようにストーリー運びも只者ではないのですが、それ以上にテンポの良い文章だけでも読み進められるというところもすごい。いちいち言葉回しがおもしろく、内容がなくてもずっと読んでいられそうです。ユーモアのある語り口は、西尾維新か、いや森見登美彦に近いように思いました。
こんな本があるからセルパブを読むのをやめられません。たいへんおもしろかったです。
以下蛇足。
この本は主人公の一人称で書かれています。一人称の難しいところは、語り手の知らないことは書けないということと、状況を主人公の語りで説明しなければならないということです。この二つの難しさのために、わたし個人的には、一人称においては情景描写に違和感が出ることが多いと感じています。しかし、この本ではその違和感が全くといっていいほどないことに驚きました。よく読んでみると、主人公が自分の目で見た情景を自分の言葉で語ってることがわかります。当たり前のことかもしれませんが、これが実は難しいことなのです。少なくともわたしにとっては。わたしなどが一人称で情景描写を書くと、作者の目から見た状況説明になってしまいます。
わたしの考える一人称の理想形が、この本にありました。たいへん勉強になりました。
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