読書感想文 『夜、銃声を聞きながらあなたと絵を描く』 柊織之助(著)

 戦争が続く国内の引き締めのため、その国では芸術が弾圧されつつあった。エーデルの働くケーキ屋でも、飾られたケーキの販売が禁止され、閉店を余儀なくされた。働き口を失ったエーデルは故郷に戻ることにした。故郷では画家の姉が弾圧に抗っていた。


 このお話は、架空の国を舞台に、戦争によって芸術が弾圧される様子と、それに抗う人々の悲喜こもごもを書いた短編です。為政者に都合の悪いもの、とくに芸術のようなものは、現実の世界でも、過去から現代に至るまで、どの国でも弾圧されてきました。日本でも戦争中は、反戦ものが規制されました。

 生きるには衣食住が足りていればいいはずなのに、そこに自己表現を加えずにはいられないのが人間です。絵を描いたり、文章を書いたり、歌を歌ったり、花を飾ったりなどなど、自己表現の形はさまざまです。古今東西、行われてきた創作の上澄みが芸術になったのだと思います。そんな芸術もしくは創作は、自己表現である以上、基本的に自由なはずです。取り組みに巧拙はあったとしても、そこに優劣はない自由なものです。他人に迷惑を掛けなければ、本来なにをやってもいいと思います。そんな創作の根本にあるのは、それに取り組む人の自己表現に対する熱量でしょう。自由と熱量。国民を意のままにコントロールしたい為政者にとっては、この自由と熱量ほどやっかいなものはありませんね。すなわち創作は民主主義の根幹であると、この小説を読みながら、改めて感じました。創作ってすばらしい!

エンタングルメント・マインド(Entanglement Mind)

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