読書感想文 『子羊みたいだね』 たとえ(著)

 単純で思い込みの激しい中学生の明朗《めいろう》は、担任のイケメン先生を悪徳教師と決めつけ、友だちのアイドルオタク芹輝《せりてる》を掃除の人質に置いて、自分は昼食のイチゴサンドを買いに向かう、という『走れメロス』の二次創作『稀代の後継者』を含む五編を収録した短編集。

 内容紹介が意味が分からないかもしれません(笑)。ですが、本当にこんなお話です。ところどころ(意図的な)論理の飛躍がありますが、そこがまた可笑しくて笑えます。主人公やその周辺もさらに作者も、全員シリアスだからこそおもしろいコメディになっています。二編目以降は、コメディではなくまじめなものになりますが、ストーリーは捉えどころがなくなります。雲の上を歩くような落ち着かない感じで読みました。特にこころに残ったのは、高校生が衝動的にフィリピンに留学するお話の『触れてみて』です。これは両親を亡くした青年の靄《もや》のかかったような心境を丁寧に描写しています。悲壮なことは一切書かれていませんが、読み終わった後はなぜか寂寥感で一杯になりました。

 それ以外の短編も含めて、なんだかズシリとこころに残りました。エンタメ本なんかより、もしかしたらこういう本のほうがずっとこころに残るのかも、と思いました。おもしろかったです。

エンタングルメント・マインド(Entanglement Mind)

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