読書感想文 『デリ嬢でもいいの?』 湊レイ(著)

 デリバリーヘルス嬢(デリ嬢)のレイは、今日もお得意様の山神の指名を受け、彼のアパートに向かった。しかし今日の彼の様子は変だった。山神はお見合いでの自身の行動にショックを受けていたのだ。レイは彼にやさしく奉仕して慰めるのだった。18禁。


 デリ嬢とは、呼ばれた客のところに出向いて性的なサービスをする風俗嬢のこと。作者は元デリ嬢で、本作は半自伝とのことです。テーマがテーマなだけに18禁カテゴリーになっていますが、あけっぴろげな性描写がかえってエロさをスポイルしていて、読み味は一般小説でした。一方で、デリ嬢の裏側や心情も赤裸々に綴っていますので、実録風のリアルさを感じることもできました。

 さて本作からわたしが感じたテーマは、『生きるということ』でした。とりあえず生きるには衣食住が足りればよいですが、それを手に入れるためにはそれなりの代償(現代ではお金)が必要で、そのためにひとは仕事をしていているわけです。主人公レイも生きるために仕事をしようとしますが、いろいろな理由で続かず、結局性風俗に落ち着きます。売春は世界最古の職業とも言われるように、身一つでやれる仕事です。世間には、この仕事がなければ生きていけないひともいるということです。わたしたちが会社で飼殺されたような生き方をしているのに対して、彼女らは日々からだひとつを資本に生きています。より根源的で濃密な生き方のようにも思えてきます。

 デリ嬢になった彼女たちには、そうなった深い理由がそれぞれ潜んでいるわけで、もちろん主人公レイにも重い理由があるのですが、彼女たちはプロとしての誇りを持ってその仕事に取り組んでいて、少なくともレイは自らの境遇に対して安っぽい憐憫はいらない、と読者に語り掛けてきます。その一方で、日々の生活、さらには将来に不安を感じて人生を振り返ったりしますので、もしかしたらそれは強がりなのかもしれません。

 そんな彼女にも奇跡のような出来事が起こる、という終盤ですが、これもやはり、その出来事を奇跡たらしめているのはデリ嬢という職業あってのことで、最後はタイトル『デリ嬢でもいいの?』でフィナーレとなります。普段小説を読んで泣くことなどないわたしですが、不覚にも少しウルッときてしまいました。

 デリ嬢というと、どこか遠い世界のひとたちを遠くから眺めている、というイメージでしたが、この本を読んですぐそばにいる同じ人間なんだよなと改めて感じました。おもしろかったです。

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