読書感想文 『失跡代行: 人が突然、行方不明になるのには理由があった』 葵 あすか(著)

 ITシステムの営業マン田中は、いつも顧客を横取りしていく先輩の梶原を恨んでいた。梶原の害が職場全体に悪影響を及ぼすにいたり、ついに田中は、同じく先輩の佐藤から紹介された失踪代行に、梶原を失踪させてくれるように頼むことにする。


 『世にも奇妙な物語』的な、あるいは、『笑うセールスマン』的な、ブラックで考えさせてくれる短編小説でした。本作の失踪代行とは、依頼者が指定した人物を失踪させてくれるサービスのこと。ドラえもんの秘密道具でいうところの『どくさいスイッチ』のようなサービスですが、そこはリアル寄りですので、存在自体が消えてなくなるのではなく、あくまでも失踪になります。あのひと最近会社に来ていないけれどどうかしたのかしら、というようになるわけです。

 どんなにお人好しなひとでも、世の中には嫌いなひと、合わないひとはいるわけで、そういうひとには近づかないのが一番です。ただそれが避けられないひと、毎日顔を合わせなければいけないひとだったら、自分ならどうするかな、と考えてしまいました。

 本作の終盤、失踪させられた人(梶原)の行く末の痛ましさに依頼者の田中は同情し、解決に向けた行動を起こしてラストを迎えます。田中がいくら嫌いな梶原でもかわいそうだと感じたこの感情は、人間特有の共感という機能のおかげだと思います。この共感を改めて呼び起こしてくれるラストによってわたしも前向きな気持ちにさせてもらえました。短編ですので一気に読んでしまいました。おもしろかったです。

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