読書感想文 『ファロ: 心の灯台の物語』 多部良 蘭沙(著)
自分の容姿に自信の持てない名塩波希《なしおなぎ》は、あるとき霧の中に置き忘れられた派手なメガネのフレームを拾う。それは自分の顔にぴったりのメガネだった。自信を持ち始めた波希は、意中の男性と出会うためにカフェに入り浸る。はたして恋は成就できるのか?
波希は恋愛経験のないブス(自称)ですが、そんな自分の境遇を嘆いているわけでもない明るい性格のフリーター女性です。そんな彼女がメガネを変えたことで人生に積極的になって、男性にも自分からアプローチしていくというコミカルでファンタジーな恋愛小説です。
波希はメガネを変えてから、コンビニバイト、眼鏡店店員、喫茶店アルバイトと短期間に職を転々としたり、彼氏見習い中のうぶなコンビニ店長(かなり年下)を無下にフッたり、カフェに居座ったりと、テンションの上がった行動をして楽しませてくれます。もちろんそれにも彼女なりの理由があって、それは眼鏡店の客として来店した父親似の男性に一目惚れして、彼に会いたい一心なのです。このへんのこころの揺れ動きは丁寧に描かれていて、応援したくなりました。波希は父親が大好きで、作中父親のエピソードは山ほど出てきますが、母親のことはほとんど出てきません。ファザコン気味で、お母さんがかわいそうになりました(笑)。
前半から少しずつあるのですが、終盤は完全に夢世界の中をさまようというファンタジー設定になります。わたし個人的には現実世界でなんとか恋を実らせて欲しかったところですが、これはこれでハートフルな感じでした。
「諦める」ではなく「明らめる」。恥ずかしながらこの本でこの用法を初めて知りました。ストーリーは「明らめる」に沿ったもので、良く理解できました。これだけでもこの本を読んだ価値があったと思います。おもしろかったです。
この本では子どもが交通事故に合う場面がありました。実は、わたしの子どもも目の前で車にはねられたことがあって幸いかすり傷で済んで良かったのですが、そのときのことを思い出しました。この本は、ストーリー上そんなに生々しくなかったですが、実際は周囲も含めてものすごく緊迫します。わたしも失神するかと思うくらい血の気が引きましたし。雑談でした。
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