読書感想文 『出口へ進め』 遠藤宙(著)

 男子高校生(美術部員)出口進は、美形女子高生の島谷瑞穂をモデルに絵を描き始めた。描くにつれて島谷に対する想いがつのるが、それは叶うことなく、フラれたその日に成り行きで同じ美術部員の柏葉玲奈と付き合い始める。一方の島谷は、応援団長の神崎と付き合い始める。

 主人公の出口による一人称回想で語られる青春恋愛ストーリーです。出口は美術部員でありながらスポーツもでき、しかも自分の意見をしっかり持っています。強者に対してもはっきりものが言え、目上に対する礼儀も正しいという、うらやましいほど完璧に近いです。時折、こんな高校生いるか? と思うほど老成した人生訓を長々と語ります(笑)。ただそういう人物だからこそ、後半の悩みが活きてくるわけです。

 そんな彼らが繰り広げるのは、派手な色恋沙汰ではなく、若々しく初々しい恋愛模様です。特に序盤は、初めて異性と付き合う高校生男女のこころの交流や恋の育みが眩しく感じました。出口が玲奈と付き合い始めたその日に彼女の家に行って父親に報告する場面、出口と玲奈のプラトニックな関係、若いっていいなと思いました。

 中盤からは少しずつ話が重くなっていきます。障がい、生きる意味、裏切り、美意識、死などが出口に襲い掛かってきます。彼はマジメであるからこそ、自分のその変容に驚愕し悩みます。このへん、身を切られるようにつらい展開でしたので、わたしは読み進めるのを躊躇しました。そして最後、死を選べなかった彼の結論がまた悲しいものでした。

 前半はポジティブストーリーでしたが、後半は一転してネガティブになって救いがありません。その対比で最後のシーンが引き立っています。ズシンとこころに響きました。


 段落一字下げされない文章ですが、意外と気になりませんでした。

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