書評 『本を読むときに何が起きているのか』 ピーター・メンデルサンド(著)

 本を読んでいるときに、我々読者の頭の中で何が起こっているのか、を言葉とビジュアルで解説してくれる本。


 本書で著者は、読書とは「「心象」と「描写すること」の物語である」と端的に言っています。おそらくこれが本書の結論だと思いますが、そこに至るまでの著者の思索を、豊富な事例や的確な問いかけで言語化してあり、さらにその思考過程をビジュアルで補足してありますので、読書という行為について、深く理解することができました。読書とはこういうことなんだろうなという自分でも漠然とした考えがありましたが、本書はそういう曖昧模糊とした認識をズバリ言語化してくれていますので、自分が考えていたことについての整理にもなりました。

 本書は、読書をしているときに読者自身に起きている現象を読者に向けて解説する、という本になりますが、もしかしたら、自身の著作を読んでいる読者の身に何が起きているのか、ということを小説家自身が理解する、という本として読んだほうが我々インディーズ作家には役に立つかもしれません。

 ここからは作家目線での本書のエッセンスを紹介していきます。

 まず登場人物は、その外貌よりも「その行為によって理解される」といいます。読者は、登場人物を人格で理解している、ということかもしれません。事例として、小説のイメージと映画化された俳優との間に大きなギャップを感じることは誰しも経験があることと思います。一方で、では小説でイメージする登場人物とは実際どうなのか、と思い浮かべてみても、その姿は明確にイメージできないということも経験済みでしょう。これは小説内で、「作家がどれだけ、人物や場所の外観について詳細に描写しても、読者の心に描くイメージをより鮮明にしたりはしない(これらの像にピントが合うわけではない)」からです。つまり、作家が小説内でヒロインの容姿を事細かに褒めたたえても、そんなことは読者の頭には何一つ入ってこない可能性があることを示しているのです。風景や出来事の描写でも同じことがいえます。それはなぜか?「読書は素描行為のようなものであり、読みながら、内容の空白を埋めたり、ニュアンスをつけたり、色づけをしたりする」からだと著者は言います。「作家は文章を書く時に要約し、読者は読む時に要約する。脳そのものが、要約し、置き換え、表象化する」能力があるからこそ、読者は無意識のうちに自らの経験や空想を駆使して、作家の思い描いた小説世界とは異なる(かもしれない)登場人物や風景を創り出しているのです。ではどのように描写するのがよいのでしょうか? 著者は「見ることと、認識することは別の行為である」ことを理解することと言っています。それ以上の明確な答えは書かれていませんでしたが、自分なりには、読むスピードをコントロールする言葉の連結と、空想力を喚起する比喩、そして空想する余地を創り出す引き算の書き方、ではないかと理解しました。自分の創作物の課題が見えてきた気がします。

 ここでは本書のごく表層部分しか紹介できませんでしたが、他にも小説を書くうえでの参考になりそうなことが数多く書かれておりましたので、ぜひ本書を読んで読書という行為についての理解を深めていただければ。特にインディー創作(特に小説)家のみなさんには参考になることが多いと思います。


個人的に一番参考になった引用。

読書における創造の多くが、視覚から解放された連想を含む。読書における想像の多くが、作家の文章から解き放たれている。

(ドストエフスキー『罪と罰』より)

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