読書感想文 『不死の宴 第一部 終戦編』 栗林 元(著)

 太平洋戦争末期、沖縄戦の隠密作戦に投入された超人部隊があった。ミ号計画と呼ばれたその極秘部隊の正体は、ヴァンパイア兵集団だった!


 ヴァンパイアの眷属を生む姫巫女と彼女らを守る守矢一族が先の大戦でどう日本軍と関わり終戦を迎えたかを綴る長編伝奇小説です。日本建国前(縄文時代)から続くミシャグチ信仰の祖には不老不死の超人の存在があったとし、その超人がヴァンパイア(作中でこの呼称は映画から借りたとの言及がある)だと結び付けています。史実と空想は水と油のようなものでうまく混ざらないものですが、この本では豊かな想像力と迫真の解釈で上手に乳化させて本当にあったことのように思わせてくれます。それだけにとどまらず、科学的(民俗学、病理学など)なアプローチによってさらに真実味を増しています。この科学的解釈は第一部では道半ばなので、続編での解明を期待しています。

 物語の後半、超人的な身体能力を獲得した若いヴァンパイア兵三名が沖縄戦に投入されますが、肉弾戦が極端に減った近代戦においては超人の用兵は難しく、戦局を変えるまでには至りません。ifを主題にする架空戦記物と違い、ヴァンパイア部隊がほとんど活躍できない近代戦というのもリアリティがありました。超人部隊そのものの悲哀を主題にしているためなんでしょうね。また、沖縄戦を一兵卒からの視点で丁寧に描写し、その悲惨さも伝わってきました。

 当事者がまだ存命する時代を書くのは気を遣うところもあったと思います。第二部も難しいところがあるかもしれませんがぜひ書いてください。期待して待っています。


 個人的な好みではありますが、この3分の2くらいの分量のほうが手に取りやすいと思いました。本編をスリムにして、豊富な蘊蓄は解説本のかたちで別冊にしていただけるとより和製ヴァンパイア世界に浸れるのではないかと感じました。

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