読書感想文 『震える背中』 野原 耳子(著)

 日露戦争の激戦地、旅順の最前線で福本軍曹は、小隊の指揮を執っていた。しかし、その血も涙もない命令に、部下の朝田伍長は反感を抱いていた。そんな戦場でのある夜、朝田伍長は、すすり泣く男の声を聞く。戦場でいったい誰が泣いているのか。


 舞台は、203高地で有名な、旅順攻囲戦の最前線です。この戦争は、参戦した兵士の3分の1近くが戦死、無傷で帰れた兵士もほとんどいないという、稀に見る消耗戦でした。先ほどまで隣で話していた僚友が、目の前で爆弾に吹き飛ばされる、そんな戦場で、一兵卒はいったい何を思って戦っていたのか、というのが本作のメインストーリーです。

 戦場には、陸戦、海戦、空戦とそれぞれありますが、なかでも陸戦の兵士は、目の前にいる人間同士で直に殺し合うという極限状態に置かれます。

 海戦は船同士、空戦は飛行機同士の戦いのため、攻撃対象は船とか飛行機などの「物」になりますよね。もちろん、その物には人が乗っていて、人が操縦しているのですが、あくまでも、物が攻撃対象なわけです。一方、陸戦では、攻撃対象は目の前の「人」になります。殺らねば殺られるという、そんな状況で、自分と同じように家族のいる生身の人間を、撃つ、刺すんですから、兵士のメンタルは相当痛めつけられるといいます。

 戦争の意義も目的も、はては作戦内容すら知らされず、ただ突撃せよ、と命令される兵士の極限状況を、本作では疑似体験できると思います。我々の今の生活は、当時の日本人たちが流した血涙によって出来ているんだなと再認識しました。深く感謝するとともに、戦争は起こさないようにしないといけないと改めて感じました。

エンタングルメント・マインド(Entanglement Mind)

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