読書感想文 『タイヨウのシズク』 渡辺 迷子(著)
熱中することもなく夢もなく、ただ無気力に過ごす青年 和田友貴は、彼女に愛想をつかされ落ち込んでいた。未練たらたらの友貴は、傷心旅行に出かけた香港で彼女そっくりのぼったくり商人の女 婉華に惹かれ、彼女とデートするために人さらいをすることになる。
香港といえばスタイリッシュなイメージがありましたが、この本ではその裏にあるダークな部分まで良く書かれていて感心しました。なるほど、作者は香港に住んでいたのですね。
主人公の友貴は、何事にもやる気がなく仕事も転々とする若者です。そんな彼にも彼女がいますが、愛想をつかして別れます。当たり前です。というのが序盤の展開です。フラれた後、かつて住んでいた香港に傷心旅行に出かけてぼったくり商人の女にわざと引っ掛かるところからおもしろくなってきます。そして中盤から、友貴は香港の闇の世界に足を踏み入れていきます。わかりやすいありがちな展開なのですが、場所が香港という異国の地であることと魅力的な登場人物によってかえって新鮮に感じました。
友貴は香港の闇世界(九龍城砦)に絡み取られ、成行きで日本語教師になります。このへんは『ショーシャンクの空に』を思い出しました。ラストは予想していた通りではありましたが、春風を感じるような気持ちの良い締めでした。『JIN-仁-』(テレビドラマのほう)を思い出しました。映画とかドラマばかり思い出してすみません。
文章は修辞を凝らした骨太なものですが、わりあい読みやすかったです。
わたしはこの本を、主人公が教師の経験を経てレゾンデートルを深く考えていくという成長譚として読みました。たいへんおもしろかったです。
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