読書感想文 『どんな気持ち』 孤独堂(著)
僕は面識のなかった隣のクラスの女子 野上弥生に一目惚れした。そのときの成行きで、僕の親友の大山俊介と野上弥生の友達の藤崎ほのかとグループ交際することになる。野上弥生は人目を惹く美人だけど根暗で、しかもとんでもない思想を持っていた。僕は彼女のその考えを変えようと四苦八苦するうち、自分が奇妙な世界に入り込んでいることを知る。
年頃の少年少女が抱く性への興味と恐怖を主題に置いてSFやスピリチュアルの味付けをした、高校生同士のピュアなラブストーリーです。
ヒロインの野上弥生は特異な思想(宗教)の下で育ち、神の存在を信じ切っています。さらにセックスに対しても常識では受け入れがたい考えも持っています。この教義が彼と彼女を悩ますきっかけになるという重めのメインストーリーです。ただ、第一巻は行間を頻繁に開ける今どきの体裁で軽快に読み進められます。同時にストーリーに引き込まれていきます。
第二巻では、彼と彼女がセックスについて侃侃諤諤《かんかんがくがく》の議論を重ねます。ここが見所だと思いました。果たして愛とセックスはイコールなのか? 好きな人以外にも欲情してしまうのに、好きな人にはそうであってほしくないというのは都合の良い考えなのか? 好きな人以外と快楽のためにセックスすることは悪なのか? 平行線の議論の理由は第三巻で明かされます。
第三巻では、どこからが夢でどこからが現実かわからなくなる展開になります。その夢を夢と認識しているところ(いわゆる明晰夢)は、拙著『ダイバーダウンの世界』に似ているところがあるなと思いました。拙著のほうは明晰夢の活用にフォーカスしていますが、この本では場面転換の手法として使っています。意識の中に別の独立した意識が生まれ、その助けによって彼女は救われます。ただしこれは彼にとって都合の良い救済かもしれません。何を言っているのかわからないかもしれませんが、最後まで読むと意味がわかると思います。深いです。
全編を通して、主人公の男子(敢えて名前を書きません)の性に対する悶々とした葛藤が良く書かれています。
性の問題を取り上げてはいますが、重くなりすぎず、アダルトに偏ることなく、軽いエロスの青春ファンタジーでした。おもしろかったです。
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