読書感想文 『エレファントトーク』 藤崎 ほつま(著)
目覚めるとオレはスマートフォンになっていた。状況がイマイチわからないが、持ち主の女子高生が援助交際をしようとしていることはわかった。嫌々なのが伝わってくる。できることは……電話を鳴らして気付かせるしかない! その女子高生は妹のマリエだった。オレは妹とともに、オレ自身の過去を辿り、事件に巻き込まれていく。
スマートフォンに転生するという発想が奇抜です。しかもただのファンタジーに終わらせず、終盤に理屈付けするところに作者の矜持を感じました。
マリエは友達を助けるために事件に巻き込まれていきます。一方スマホであるミカツグは、すぐ傍にいるのに傍観者でしかない状況。マリエの危機にも手出しができないもどかしさが良く伝わってきました。ミカツグは事態を打破するために自分の友人関係を駆使するわけですが、それは生前に積み上げた信頼関係に依存する砂上の楼閣のようなもの。ミカツグがいいヤツで、みなの信頼が厚くて良かったです(笑)。
シスコン・ブラコン気味の兄妹なのは家庭環境に遠因もあることを匂わせますが、深く突っ込まないところは好みな感じです。ラストに至るまでミカツグの想いは明らかにならないのですが、ほのかに感じさせることでせつない余韻が漂ってきました。
文章は、主人公 四条ミカツグを通して見た世界を丁寧に描く一人称です。スマホから見るという特殊な視点なわけですから、スマホがポケットに入ると視界がなくなるなど、書く時の苦労が偲ばれます。ただミカツグの語り(地の文)に作者の知的レベルがにじみ出ているように感じて、自分が大学生のときはこんな言葉使って考えたかな、と少し違和感が残りました。まあミカツグはK大生だから優秀なのかもしれません。こういったところは難しいですね。
読みやすくて一気に読みました。おもしろかったです。サンプルだけではその後の事件や両者の想いはほとんど伝わってきません(わたしもしばらくサンプルだけで止まってました)ので、ぜひ最後まで読んでほしいですね。
0コメント