読書感想文 『象の国の侍』 天堂晋助(著)

 関ヶ原の戦いを生き残った貧乏侍の佐分正勝は、戦で命を救ってやった仁左衛門とともに、未来を切り開くため、シャム国に渡る。ふたりは、シャム国の傭兵として、日本人隊を率いるようになり、出世していく。


 日本の戦国時代末期にシャム国(現在のタイ)に渡航して、当地の日本人侍として名を残した山田長政の歴史小説です。山田長政の歴史資料は少ないようですが、本作では、作者が空想を自由に膨らませて、躍動するストーリーを作り上げています。「綿密な取材に裏打ちされた歴史冒険小説」と紹介されているように、当時のシャム国の歴史背景や風俗などがしっかり伝わってくる、骨太の歴史小説でした。

 また、物語の構成としては、シャム国に住む日本人の調査にやってきた幕府役人が、当地で焼き討ちされた日本人町を見て、ここで何が起こったのか紐解いていく過程で、生き残りの日本人から山田長政(仁左衛門)と正勝の人生が語られる、という入れ子構造になっています。これは創作ですよ、と作中人物に語らせる歴史小説として上手な入り方だと思いました。

 ストーリーは、ふたりの主人公、仁左衛門と正勝を軸に、紆余曲折しながら進んでいきます。山田長政となる仁左衛門が、その溢れる才気と狂気を自分のものとし、日本から遠く離れたシャム国で下剋上を仕掛けていく一方で、彼の兄貴分の佐分正勝は、圧倒的な剣の腕前を持て余し、戦よりも日々の生活での幸福を求めていて、この正反対のふたりの愛憎と相克がストーリーに厚みを持たせ、読者を先に先にと引っ張っていきます。

 正反対のふたりとなると、どちらかが悪役になるなど作者の思想が表に出てきて鼻白みがちですが、本作の書き方は双方に対して中立で、双方の正誤や善悪は読者にゆだねるかたちになっていますので、読んでいてさわやかな感じでした。おもしろかったです。

Amazonリンクがエラーになってしまいましたので、表紙画像をダウンロードさせていただきリンクを貼りました。

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