読書感想文 『オリエンタル・ブルー』 秋吉真之介(著)
フィリピン・ミンダナオ島の小さな街ディゴス市。貧しく治安の不安定なこの街に、日本の企業が工場を建設した。その工場にマネージャーとして赴任してきたのが永倉という男性。永倉は、現地の抗争に巻き込まれて死線を彷徨うことになるが、それでもフィリピンに留まり続ける。
フィリピン現地の世相や因習を背景にした重厚なハードボイルド小説でした。ハードボイルドですので、登場人物を取り巻く暴力や諦観が主題になっているのですが、それよりもわたしが注目したのは、フィリピンの実態がかなりリアルに描かれていたところでした。このリアリティはどうやって得られたのだろう、綿密な取材をしたのかな、でも海外だしなあ、と不思議に思っていたのですが、あとがきを読んで得心しました。それによると、作者はフィリピンに駐在していたことがあるとのこと。やはりそういった現地経験があって本作の熱量につながっているんだなと納得しましたし、人とは違う経験が小説に反映できていて羨ましくもなりました。
観光客が見るフィリピンの風光明媚で陽気な光景は表向きであって、その裏側の下町は、ドゥテルテ前大統領が過激な麻薬撲滅キャンペーンを実施したくらい麻薬が蔓延していて、人々の貧しさと相まって、まだまだ治安が悪いということです。本作では、フィリピンの下町の雰囲気や風俗が丁寧に描かれており、ガイドブックではわからない異文化を実感を持って理解できた気がします。
小説ノウハウではよく、冒頭で死体を転がせ、ということを言われます。本作に当てはめると、物語が動き始めるのは中盤以降ですので、小説ノウハウ的にはおもしろくない作品となってしまいそうですが、全然そんなことはなく、前半からフィリピンのリアルで読者を楽しませてくれます。同時に登場人物を深堀りし、感情移入を施してくれますので、後半ではより一層物語に入り込んで楽しめるような構成になっていました。おもしろかったです。
Amazonリンクがエラーになってしまいましたので、表紙画像をダウンロードさせていただきリンクを貼りました。
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