読書感想文 『キルザットガール』 乃土雨(著)

 横山メルは、アイドル柚木そらにそっくりなことがコンプレックスの女子高生。今夜もライブハウスに通い、あるアマチュアバンドを探していた。子供のころ、そのバンドメンバーに助けられたことがあったのだ。それがきっかけでパンクロック好きなった彼女は、友人らとともにガールズバンドを結成する。


 女子高生がバンドを結成するまでの葛藤と、バンドにのめりこんで成長していく様子を丁寧に綴った青春小説でした。

 登場するキャラクターは女子高生がメインで、主に女子高生同士の関係性でストーリーが進んでいきます。男子はというと、メルの幼馴染の同級生で松本悠里という美少年がいるのですが、実は彼は女の子のため、それ以外ではほぼおじさんしか出てきません(笑)。もちろんおじさんはメルたち女子の恋愛対象ではないので、おじは彼女らのサポート役に徹しています。一部ナンパしてくるおじ(ビリーさん)もいましたが(笑)。女子高生メイン、おじさんはサポート役、というキャラクター配置でストーリーから恋愛を外に置く本作の構成によって、恋愛を女子の成長の糧に使わないという作者の意図を感じました。ストーリーから恋愛感情を排除することで、テーマに対してシンプルでストレートな作品になっています。これは、漫画家 川原泉が短編作品の多くで使っていた構成と同じですね。

(蛇足ですが、川原作品では、女子のおじに対する信頼表現の裏に仄かな恋心が垣間見えるようにも感じることから、川原泉はファザコン作家だと言われたこともあったらしいです)

 本作を読んで自分的に感じたテーマは主にふたつでした。一つ目はリフレーミング、二つ目は創作論です。

 一つ目のリフレーミングとは、ポジティブシンキングとも言い換えられるかもしれませんが、視点を変えて良い方向に物事を考えることですね。本作の登場人物も、お互い衝突しながらも視点転換によって成長し、ついにはガールズバンド結成に至ります。その過程は実に爽快でした。

 二つ目の創作論は、バンド結成後のテーマで、作中では、彼女らがバンドに取り組む理由、売れる売れない論争につながります。これは音楽以外の創作にも通じる悩みで、結局それは、自分本位か、他者本位かのバランスによって決まってくるもので、そのスタンスの違いに正解はないんだろうなと思いました。

 全体の印象として、女子高生の会話の掛け合いが多く、わたしのようなロートルにはついていくのが若干つらく感じることもありました。これが最近の青春小説のスタンダードなのかな。そうだとすると、自分の作品も少し見直す必要がありそうだと思いました。

Amazonリンクがエラーになってしまいましたので、表紙画像をダウンロードさせていただきリンクを貼りました。

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