読書感想文 『宙が遣わす船に乗り』 森戸 麻子(著)
空には謎の雲が広がり、人々は鬱屈する日々を送っていた。そんな中、SNSで出会ったミトンとリッキー。世界の破滅と友情を天秤にかけたとき、彼女たちはどちらを選択するのか。
2020年に現れた銀色の雲が世界を覆い、人々の生活を蝕んでいく、という舞台設定のSF小説中編。SFとはいってもサイエンスファンタジーのほうのSFですね。SF要素は舞台設定のみですので、小難しいことを考えずにサクッと読めました。
ミトンは、分岐する世界線で選択を迫られ、結末がわかっていながらも、自らの意思で、破滅に向かう世界を選択します。その場面を自分に置き換えたとき、日常的にはあまり考えずに良い悪いで選択しがちで、そこに自らの強い意志はあるか、と考えさせられました。
SF的に考えると、多世界解釈においては、分岐で世界は無数に分かれていきますので、破滅に向かうミトンもいれば、そうでないほうのミトンもいることになり、それは結局、自分の意識次第なのかもしれないなと思いました。ハッピーエンドかどうかは、自分の意思で決めることかと。おもしろかったです。
さて、本小説で書かれる世相は、新型コロナ騒動で起こった顛末を先取りしています。あとがきにもありましたが、あまりに現実と執筆時期が近すぎると、流行りに乗って書いたんじゃないかとか、いろいろ言われそうで、小説の発表を躊躇しますよね。わたしも似た経験がありまして、2016年から書き始めた拙作『エンタングルメントマインド・シリーズ』(2017年からkindle出版)では2024年に欧州で長い戦争が始まるとか書いているのですが、実際に2022年に戦争が始まってしまい、この部分は宣伝しにくいなあと思っています。ちなみに拙作では、2049年全面核戦争が起こる設定になっていまして、こちらは当たらないように願いたいものです。
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