読書感想文 『自由な生き様にひれ伏せ』 無限大(著)
男子大学生の愛音《あいと》は、ニートで超美人の幼馴染 伽羅奢《がらしゃ》から『盗撮してきてくれ』という依頼を受けた。盗撮しないと自分が犯罪者になってしまうかもしれない、と言うのだ。仕方なしにターゲットの家で盗撮する愛音だったが、そこにいたのは女子小学生だった。
今どき普通の男子大学生の愛音と、アイドル並みの容姿をもちながらその中身はオタク・ニート・ゲーマーという引きこもり三冠王で、性格は超キツイ幼馴染、伽羅奢との関係性で進む、日常系ミステリ&サスペンス小説です。伽羅奢のキャラ設定は、現実にはほぼいないだろうというくらい突出しており、この小説世界でも当然のように周囲とトラブるわけですが、そのエピソードは回想シーンでのみ明かされ、本編シーン自体は登場人物がすでに自らの居場所に落ち着いている安定した状態でスタートしますので、ある種安心感のある始まりになっています。その後、日常系の謎があったり、過去も絡めたサスペンスもあったりなど、緩急をつけたストーリー展開で、読者を最後まで引っ張っていってくれます。事件を通して、自らの居場所を守りながら殻を破っていく葛藤が登場人物の成長に繋がっていく様子に、読んでいて作者の想いが伝わってくるようでした。おもしろかったです。
さて、皆さんご存じの創作方法の一つとして、舞台やキャラクターの極端化がありますよね。極端な舞台に普通のキャラクターを置いたときの右往左往や、普通の日常に極端なキャラクターを放り込んだときの軋轢を、物語を転がしていく駆動力にするというテクニックです。本作のヒロイン伽羅奢キャラクター造形が、まさにそれに当たるなと思いました。名前もかなり特徴的ですしね。ライトノベルでは舞台設定よりキャラクター造形のほうに重点を置くようなので、本作は、そういう意味でライトノベル寄りなのかもしれませんが、読み味は一般小説に近く、わたしのようなロートル読者でもスッと入っていけました。
0コメント