読書感想文 『未完成のガンチャ』 まきもと じゅん(著)
カー用品店メタルキャビンで敏腕メカニックとして働くヤマキ。ある日、彼の携帯電話が鳴った。本店に勤める友人の下条からだった。今すぐ本部に来い、という。ヤマキが本部で聞いたのは、幻のスポーツカー、ガンチャの開発だった。
今から約30年前の1996年、改造車メーカーのミツオカ自動車は、『ゼロワン』というスポーツカーで型式指定を受け、ホンダ以来の日本10番目の自動車メーカーとなりました。この出来事は、自動車趣味のエンスージアストのあいだでは結構な話題となったことを覚えています。それほどに型式指定の壁は厚く、新規に自動車メーカになるのは難しかったのです。ミツオカがこじ開けた道の先には、個人趣味に毛の生えたようなバックヤードビルダーでも、自分の思い通りのクルマを作って公道を走らせられるのではという夢があったのです。それから30年たった今、結局日本にはイギリスのようなクルマ文化は芽吹きませんでした(笑)。本作は、そんな当時の夢を思い起こさせてくれるクルマ小説でした。
作者は元レースメカニックで商品開発も経験しているということで、クルマの企画から設計、宣伝まで、少量スポーツカーの開発の難しさがリアルに伝わってきました。特に稟議を回すところは、あるあるで笑いました。
舞台はおそらく平成初期、2000年前後。当時はバブル崩壊後で、閉そく感漂う時代でしたが、本作では、メタルキャビンやガンチャなどネーミングセンスが昭和っぽいのと、登場人物もみな元気で明るく、昭和末期のバブル時代の雰囲気を感じさせてくれました。読んでいて元気が出る感じでした。一気に読んでしまいました。クルマに興味のある人に特にお勧めです。たいへんおもしろかったです。
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