読書感想文 『紫菊と最後の季節』 兼信資(著)

 彼女の紫菊が『アンナロッテ症候群』(感情と衝動が失われる病気)になった。紫菊は、何の感情も行動もなくなってしまった。そしてそのうち永遠の眠りにつく。僕はそんな彼女を連れて、一癖も二癖もある住民たちが住むアパートで、不思議な共同生活を始めた。


 まず、Amazonの内容紹介から、本作のメインストーリーは全然想像できませんのでお気をつけください(笑)。わたしはSFと思って読み始めたのですが、悲恋な青春小説のようなお話が始まって、いつSFに切り替わるのだろう、と思っているうちに終わってしまいました。SFを期待しないほうがよいでしょうね。

 文体は主人公の一人称で、文章はワンセンテンスが長い饒舌系。このタイプの小説は、文字でページが埋め尽くされるのですが、語りのリズムとテンポが良いので、すいすいと読めてしまいます。気持ちよく書いている感じが伝わってきて、重めのストーリーなのに、炭酸水を飲むように読んでいて気持ちが良かったです。こういう文章が書きたいなあ、と自分も思っていて、チャレンジしたのが『ランチメイト』(宣伝)でした。わたしの場合は、若干変態チックな文章になってしまっていますが……

 ストーリーは、『アンナロッテ症候群』になった彼女との生活と感情を、主人公が淡々と饒舌に語る、というものです。『アンナロッテ症候群』は意識のある脳死というような状態になる不治の病ですが、意思も感情も示さないながら一緒に行動はできるというところがポイントです。従順な痴呆症とも言えるかもしれません。最愛の人に、自分の感情が伝わらない、反応がない、となったときのやるせなさ、悲しさのような気持ちがさらりと表現されています。こういう悲しいシチュエーションをこってり風味の表現で書くとウソっぽく感じるのですが、本作はあっさり系でしたので、かえってスッとこころに訴えかけてくるようでした。SFとしてはよくわかりませんでしたが、青春小説としておもしろかったです。

Amazonリンクがエラーになってしまいましたので、表紙画像をダウンロードさせていただきリンクを貼りました。

エンタングルメント・マインド(Entanglement Mind)

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