読書感想文 『移民対AI-日本残飯株式会社』 小林 アヲイ(著)
移民行政とともに拡大してきた企業NZPに、人口庁との癒着というスキャンダルが突如発覚した。渦中にある移民調整課の社員の上条丈は知り合いの下に身を隠すが、善前しかりという冷徹な女によって事件に巻き込まれていく。
恵方巻などの食品ロス(消費されずに廃棄される食品)が昨今問題になっていますが、このお話では、そうした残飯の鮮度を簡単な技術で維持し海外に輸出して大きくなった企業「日本残飯株式会社」が舞台の経済小説です。その残飯会社が移民管理業者NZPになり、国と近づき、潰されようとする栄枯盛衰を描いています。残飯、移民とも今後の日本社会では避けて通れない課題なだけに、近い将来の日本の状況に思いを馳せながら読みました。といっても残飯も移民も舞台装置でしかないのは少し残念でした。
主人公 丈は特に自分から動かず、反抗する素振りは見せるものの基本姿勢として周囲の状況、指示に流されるままの、巻き込まれ型ストーリーです。自分もそうなのですが、一般的な会社員では受け身なのも仕方ないかもしれないという意味でリアルでした。ただ、もう少し主人公があがいてみたりすると熱気のあるストーリーになったようにも思います。
作者の他の本(『ブレイブガールスープレックス』『無責任姉妹』)が明るく楽しい読み味だったのに対してこの本はクールです。文章はさすがに上手で読みやすいです。タイトルのAIについては続編で明らかにされるのでしょう。続編をお待ちしております。
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