読書感想文 『ドウジジョウエイ』 やくめぼーろ(著)
平凡な日常を繰り返す男性は、偶然立ち寄った映画館で平凡な映画を見て感動する。その映画館に通うことが彼の日常に繰り込まれるが、毎回変化のない上映環境に違和感を覚える。短編。
主人公は親の遺産と株のデイトレードでひっそりと暮らしています。そんな生活が周囲からどう思われているのか本人も良くわかっていますし、旧友からもいろいろと言われることも肯けることばかりです。ただその指摘などは、経済的に自立し誰にも迷惑をかけていないと自負する彼にとっては大きなおせっかいなのでしょう。彼は性格上、人と交わることを極度に避けているだけなのです。わたしも社交は苦手なほうなので、読んでいて彼の気持ちは良くわかりました。できるなら『小説家を見つけたら』のフォレスターのように引きこもって暮らしたいです(笑)。
さて、彼が散歩中に偶然見つけた名画座シネマでは、海外の映画1本を同事上映していました。同時ではなく同事。これがストーリーの要です。変化のない日常に現れた非日常。その非日常すらも日常になったとき、彼は変化を起こそうと試行錯誤します。変化を好まないはずの彼が興味に突き動かされる様は、人間の性《さが》を感じさせます。
後半はファンタジー系の話しになりましたので、わたし的にはリアルな謎解きであったらもっと好みだったかもしれません。ただ、とらえどころのないモヤッとした雰囲気が心地よく、最後までじっくり楽しめました。おもしろかったです。
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