読書感想文 『強振ブルース』 新田 将貴(著)
プロ注目の高校野球選手だった成元は、試合中の大けがで甲子園に行けず、野球を引退した。野球一筋だった彼は野球しか取り柄がなく、仕事も続かず、夜通しバッティングセンターで打ち込む日々。鬱屈した彼に店主が持ち掛けてきたのが、賭けバッティング『イチマンエン』だった。夜のバッティングセンターで、真剣勝負が始まる。
昔ならジャイアンツ王・長嶋、今なら大リーグで大活躍している大谷翔平選手をみて、高校球児は夢を膨らませます。オレもあんなふうになりたい、と。夢をみるのは自由ですが、現実はそう甘くはありません。そこまで到達できるのは、ほんの一握りの者だけ。まずプロ野球選手になるのが困難で、そもそも甲子園に出場するのが難しく、チームのレギュラー争いも熾烈です。大リーグやプロ野球で輝かしい活躍をする選ばれし者の裏には、おびただしい数の諦めし者たちが存在するのです。本作は、そんな諦めし者の、諦めないストーリーです。前向きな気持ちをもらいました。
本作を読んで、こういった選ばれし者と諦めし者たちの構図は、野球だけではなく、どんなスポーツにも、芸事にも、仕事にも、社会のあらゆることにも当てはまるんだよな、と改めて思いました。それはわたしが趣味としている文芸もそう。小説サイトで上位になるのも、公募で選考を通るのも、一握りの人たちだけです。そうやってデビューしても、そこから著名作家になっていけるのは、さらに一握り。○○賞なんかをとって文壇でキラキラしている選ばれし者の裏には、わたしのように諦めし者の屍がおびただしく山をつくっているわけです。まあキッパリ諦めるもよし、趣味の世界に逃避するのもよしですが、続けるなら、牙は研ぎ続けていくことが大事なんだろうなと思います。牙を牙としていつでも使えるように。実は昨年末に書いた短編『クリエイター・エレジー』(まだ未公開)は、そんなクリエイターの悲哀をダイレクトに書いたのですが、本作は別視点からクリエイターに刺さる作品でした。たいへんおもしろかったです。
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