読書感想文 『ロンドンのサムライ』 天堂晋助(著)

 19世紀末、ロンドンでひとりの日本人が賭け拳闘試合に出場した。相手は、痩せた日本人の二倍以上も体格差のあるモンスターのような男。痩せた日本人の勝ち目はないように見えた。しかし観客のジャックは、有り金全部をその日本人に賭けてしまったのだ。なぜかは自分でもわからなかった。


 日本では幕末の頃のロンドンを舞台にしたアクション小説です。薩摩藩士で剣の達人でもある矢作貢は、いろいろな事情が重なってロンドンまで流れ着き、日本に帰ることもなく拳闘で生活費を稼いでいます。体格で劣る矢作が、その体術で並みいる相手を破るところは爽快でした。彼はステレオタイプのサムライですが、礼儀と清貧の思想を持っているところも好感度アップですね。

 日本では昔から武術が発達し、幕末くらいから各地で柔術が盛んになって、それが今の講道館柔道に繋がっていくわけですが、その柔道創成期のつわものたちもまた世界に武者修行に出て、各地で現地の力自慢たちを倒して回った、という逸話が残っています。その代表例が、コンデコマ前田光世ですし、15年無敗の木村政彦ですね。彼らは、戦いに強いのはもちろんのこと、高い精神性も持っていました。まさに心技体が揃ったサムライだったわけです。そういった人々の活躍によって、世界で柔道が広まっていったのだと思います。本作から、そういう時代や人物の匂いを感じました。おもしろかったです。

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