読書感想文 『公認心理師前史物語』 平山崇(著)
精神病院である平和病院に突如採用された臨床心理士の古城語楼《こじょうごろう》。同じ心理士である渡條成美は、自らの信念を貫こうとする古城に惹かれ始める。
全く不勉強だったのですが、この本を読んで心理士の国家資格(公認心理師)ができたのは2017年のつい最近だったことを知りました。作者は心理士として働いていたということで、2017年以前の現場の様子を心情も含めて本当に生き生きと描写しています。
心理士は、医師のように切った貼ったもできないですし、薬も出せません。作中で成美は、心理士は「言葉の力」を使って患者さんと向き合って来たと言います。日本には古来より言霊《ことだま》という考えがあり(作中にも指摘あり)、古城はその言葉を駆使して患者の治療(俳句や詩)に当たります。この治療場面は、きっと作者の実体験に基づいたものなのでしょう。迫真の描写に引き込まれました。読みながら、わたしの書く言葉には果たしてそんな力があるんだろうか?と自問自答しましたし、人を変える力のある言葉を綴りたいと、そう思いました。
ストーリーは、心理士の臨床現場での人間ドラマに加え、古城が何者かというミステリー要素を絡め、最後に乾坤一擲の逆転劇を見せるという短編とは思えない濃いものでした。文章は「ガムテープを剥がすように部屋を出た」など少し変わった比喩を用いるのが特徴ですが、着実な筆致で読みやすかったです。
たいへんおもしろかったです。古城を主人公にシリーズ化できるんじゃないでしょうか。期待したいです。
0コメント