読書感想文 『瀬戸物は残った』 岩尾俊兵(著)
かつて佐賀藩には白磁に染付が躍る高級焼き物「色鍋島」を作る名門窯元が13窯あった。そのうちの一つ、堤家の当主は惣右衛門という人物である。彼には毀誉褒貶《きよほうへん》な人物評が残っている。無理もない、惣右衛門は三人いたのである。
というミステリ設定で始まる1700年代後半が舞台の時代小説です。焼き物は『なんでも鑑定団』で勉強したくらいで詳しくないため、少し調べてみました。確かに堤惣右衛門は実在した人物のようです。さらに焼き物界では有名な加藤民吉や、他にも実在した人物が多く登場します。この本は、彼らの史実を織り混ぜながら断定口調の説明文主体で進むノンフィクション風の時代物語で、どこまでがノンフィクションでどこからがフィクションなのかわからない巧みな構成となっています。社会科学小説と銘打っているだけあって世の道理(徳など)に沿った行動が世界を動かしていく、という筋のストーリーで安心して読めました。ほんのり修身の味わいもありました。
かつて焼き物界が秘密を守るために厳しく情報管理をしていたことが、この物語の主軸だと読みました。これは今日の企業の機密管理も同じことで、いつの時代も先んじるというのは大変なんだなと思いました。
短編で一気に読みました。おもしろかったです。
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