読書感想文 『パンドラの不条理劇~遺産相続殺人事件~ 弁護士穂積晃シリーズ』 乙野二郎(著)

 地方の富豪 不士岡鉄蔵が死んだ。しかしあるはずの莫大な遺産が忽然と消えていた。残されていたものは三通の要領を得ない遺言書のみ。遺産を巡り三人の子が諍《いさか》いを起こし、ついに殺人事件にまで発展する。はたして遺産はどこに?


 弁護士 穂積の下に相続の相談が持ち込まれます。額の大きな相続は実入りが大きい、遺言書の有効性、弁護士事務所内で利益相反しないなどの生々しい裏話を挟むところが実務に精通した作者の真骨頂ですね。この利益相反のために共同経営者の若手弁護士 新名来里が出て行ってしまうわけで……このあたりはきっちり依頼者の利益を守ろうとする弁護士の矜持を感じました。

 穂積は不士岡の長男の代理人に就いて遺産の行方を追っていきます。遺言書の謎解きだけでなく、穂積の事務所が荒らされたり、謎の老人が現れたり、殺人事件が起こったりと息もつかせぬ展開で一気に読みました。

 後書きで謙遜なさっておりますが、本作は現実に即したロジカルな構成による堅実なリアリティがあると思います。さすがに安定したおもしろさでした。

エンタングルメント・マインド(Entanglement Mind)

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