読書感想文 『執事と三人の刺客 』 口冊司(著)

 日本三大仇討ちの一つ、曽我兄弟の仇討ちの裏には鎌倉幕府内の苛烈な権力闘争があった。曽我兄弟も工藤祐経もその争いに巻き込まれたのだ。政所別当の中原(後の大江)広元は、その謎の究明に乗り出す。


 冒頭、織田信長の代名詞である「天下布武」の解説から始まるところは、司馬遼太郎の本を彷彿とさせます。そして時代は鎌倉時代へ。幕末や戦国時代に比べてややマイナーな感のある鎌倉時代ですが、室町、江戸と続く武家政権(幕府)の基礎となった時代と説明されると俄然興味が湧いてきます。その仕組みを作り上げた中心人物が本作の主人公 大江広元です。わたしは名前しか思い出せませんでしたが、元々彼は大和朝廷の下級役人(作中はもっと重要な役回り)で鎌倉に下り源頼朝に重用され政所の別当(今でいう官僚のトップ)になった人物です。その彼が、曽我兄弟の仇討ちに注目します。因縁は十数年前の土地横領が発端なのですが、実はそのはるか以前から仕組まれていた! というのがわかってきます。さらに事件の背後には超重要人物の暗殺すらもあったのです、ときます。もちろんフィクションなのですが、ifではなく、歴史に隠された謎という形で物語が進むのでとても興味をそそります。

 この本は歴史小説ですので登場する人物、モノ、言葉は時代考証されているのですが、それほど厳密でもありません。現代の言葉で説明しているところもあり、読みやすく親しみやすい文章になっています。これは敢えてそうしているんでしょうね。

 歴史物(しかも史実ベース)でありながら、きちんとミステリ構成になっているのが新しいです。広元が探偵役で、それ以外の有名人(比企尼や北条政子など)が全員容疑者という配役のミステリです。史実をベースにしているため謎解きが若干苦しいところもいくつかありました(例えば足立盛長が天寿を全うできた理由とか)が、飄々《ひょうひょう》として凄みを全く感じさせない広元が、調査と聴取と推理で容疑者を追い詰めていくところはとても爽快でした。たいへんおもしろかったです。

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