読書感想文 『君は壁新聞を読んだか?』 九阿弥号純(著)

 クリスマスの前々日、僕(東間)は街を歩いていた。曇り空から小雨が落ちはじめ、すぐに雪に変わった。いつもと変わらないクリスマスの光景。そこに突如、軍用ヘリコプターの爆音が周囲を覆った。ヘリがばらまいたビラには「日本は占領されました……」との文章。その瞬間から僕たちに日常は永遠に戻ってこなかったのだ。


 東間という青年が亡命に至る体験を手記という形で綴った革命物語。日本がソ連と朝鮮の連合軍に侵攻され東日本と西日本に分割統治されるという我々日本人にはなかなかショッキングな設定になっています。前半は占領下での統制された平穏、中盤からきな臭くなってきて、後半は怒涛の亡命と革命劇と盛り上がります。占領下という状況は普通体験することができないのですが、この本では抑圧の臨場感と傍観的な心情を良く表していて、実際にこうなるのかなと想像しました。

 手記という体裁を崩すことなく最後まで書き切っているのは素直にすごいなと思いました。結局わからないことも多く残る(手記なので主人公のあずかり知らないところはわからない)のですが、結果的に平行世界のリアリティを存分に感じさせてくれました。手記であるからこそ、その後に起こる悲劇や出来事などを予感させる書き方ができ、ページをめくらせる力になっていたと読んでいて感じました。

 文章は横書きです。わたしは小説は縦書きでないと読めないタイプなのですが、本作は不思議とすんなり読めました。一文が短めだからかしら? 横書きは縦書きに比べ折り返しが短いので、縦書きと同じくらい一文が長いと目が滑る気がします。

 タイトルの「壁新聞」はあまり出番がありませんでした。もう少しギミックとして使ってほしかったかな。

 ソ連、朝鮮、イスラエルなど、地政学的に少々センシティブな話題も扱っており、商業ではなかなか出せない内容ではないかと思います。手記という実験的体裁といい、セルパブならではの本です。おもしろかったです。


 Amazon内容紹介にはかなりのネタバレが含まれていますので、本を読む前には見ないことをお勧めします(笑)

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