読書感想文 『或る集落の●』 矢樹純(著)

 田舎に住む姉を尋ねた妹は、姉の変わりように驚く。狂気をまとった姉は山奥にあるべらの社に通い詰めていた。伯父は「姉っちゃは、べら様に取らでまったのさ」と言う。(『べらの社』)


 短編ホラー4編を収録した短編集。1つ目の『べらの社』以外の3編は「がんべ」という人であって人でないという人物に関する連作になっています。『べらの社』は若干異世界を感じさせるお話でしたが、それ以外(「がんべ」連作)は人のこころに潜む狂気がテーマのホラーかなと思いました。

 ホラーの構成としては、シチュエーションで積極的に怖がらせる形ではなく、ストーリーの中で徐々に寒くなってくるような実録風の作風になっています。いずれも田舎にある古い風習や信仰(どれもフィクション)にまつわるお話で、日本人に刻みつけられている深層心理を刺激して恐怖心をあおってきます。読み続けるにつれて心胆を寒からしめる恐ろしさがありました。

 文章は一人称なので主人公の心情に感情移入しやすく、読者の胸中に恐怖を湧き上がらせてきます。一方で、主人公がどんな境遇のときでも淡々とした地の文なのは少し違和感がありました。意識もうろうとしているのに、狂乱しているのに、ピンチなのに客観的に自分を見ているという描写なので、冷静だなぁと思ってしまいました。いっそのこと回想という構成にしてしまえばこの違和感もなかったのかもと思います。

エンタングルメント・マインド(Entanglement Mind)

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