読書感想文 『アンティキティラの星の人々―ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・レトロフューチャー―』 葦原葭彦(著)

 火星植民計画により第一次植民試験が行われ、極めて難しいその試験をパスしたプラヤースは家族を連れ火星に移り住むこととなる。その植民と同時に火星大統領の選挙が行われる。立候補はアンドロイドのカレルと、人間のギップ。ギップの後援についた老練な政治家イオリには、プレコグ(予知能力)者でなないかといううわさがあった


 火星の植民にまつわる群像劇です。政治やテロがストーリーの軸にはなっていますが、それ以外の科学技術が発達した世界(設定は平行世界の現代)の暮らしぶりが想像力豊かに描写され、とても興味深く読みました。この本に描かれるような技術が急速に進歩した世界は、近い将来現実のものになるでしょうね。未来世界に楽観的な人々に対し、政治家イオリは「人間は、人間それ自体の人間性は、五十年前とも、三百年前とも、五千年前とも変わらないはずなのです」と演説します。彼が述べる少し技術が進歩したって人間は変わるはずはないのにとうの人間は何か変わった気がしているという主張は、まさに現代に広がる万能感に対するアンチテーゼだと思いました。「ロボットのために何ができるか問われる」という言葉に、近未来における人間の役割とは何か、ということを考えさせられました。

 凝った言い回しや比喩が多用されるワンセンテンスが長い独特な文体です。読み慣れるまでに少し時間が掛かりましたが、この本の世界観・雰囲気を作り出すのに一役かっています。おもしろかったです。


 今現在kindleリンクが切れています。もしかして出版を取り下げられたのかもしれません。本格SFでおもしろかったので少し残念です。

エンタングルメント・マインド(Entanglement Mind)

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