読書感想文 『ユトレシア・ブラックジャーナル・サーガ』 小林アヲイ(著)
幼馴染である二人の若者(カバックとワイク)が立ち上げた零細の『サルマンダー新聞社』は、設立二ヵ月にして窮地に陥っていた。サルマンダー新聞社は新興であるがゆえに新聞社ギルドに加盟できず、大きな売れ線である『勇者ご一行』取材から締め出しをくらったのだ。既得権益の壁にぶち当たった彼らは、生き残りを賭けて勇者ゴシップ記事に活路を見出そうとするが……ペンと写真で巨大な権力と立ち向かう二人の若者とうら若き念写女子(エルン)の闘いの物語。
紹介文は少しシリアスめに書きましたが、内容はお馴染みのコメディタッチで楽しく読むことができました。『サルマンダー新聞社』は生き残るための手段として書いたゴシップ記事で、結果として勇者一行の裏の面を暴いてしまいます。ゴシップ記事は王国の統治システムに盾つく行為で『サルマンダー新聞社』は大きな圧力を受けて潰されます。ファンタジー世界を舞台にしているにもかかわらず、現代世界にも通じるテーマでジャーナリズムの役割を考えさせてくれます。結局のところ新聞を含めたメディアは人が人に伝える手段であるために、必ず伝え手の主義主張がコンタミします。絶対的に公平中立なメディアは存在しないので、人々はその中から自分にとっての真実を見つけ出すしかないわけです。民主主義とは各人それぞれが真実と考える意見を集約するもので、その結果が民意となることから、そのためにも伝えるメディアは数多く必要であって、それがジャーナリズムの基本なんだろう、と読みながらそんなことを考えていました。世相を切り取ったゴシップにも真実が紛れ込んでいるんだろうな、と思いました。
恋バナも少しあって、シリアスに傾きがちなテーマに華を添えています。特にワイクのお見合い話はおもしろかったです。作者の結婚観が垣間見えたような気がしました(笑)。あと天然女子エルンの活躍や成長譚をもっと読んでみたい気がしました。
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