読書感想文 『オードトワレ』 戸田 鳥(著)

 叔母はもう意識がなかった。訪れた叔母の部屋には男性用香水の残り香が微かに漂っていた。叔母の葬儀でも香った匂い『オードトワレ』。その香りをまとった人物は叔母とどんな関係だったのか。過去を辿るうち、姪の冬花はそれまで知らなかった叔母の一面を知る。


 内容紹介がミステリっぽくなってしまいましたが、実際は上品な大人の恋愛小説です。モチーフは匂いで、主人公の冬花も叔母も『オードトワレ』に誘われるように一人の男性に惹かれていきます。

 さて、脳の中で匂いを感じる器官は最も原始的で記憶と結びつきやすいことがわかっています。みなさんも子どものときクルマに乗ったとたん車酔いした経験はありませんか? この原因はクルマの匂いです。過去車酔いしたときに乗っていたクルマの匂いを酔いと結び付けて記憶してしまい、その匂いを嗅いだとたん車酔いの症状が出てしまうのです。閑話休題。

 冬花は『オードトワレ』と彼を結びつけた叔母の記憶に感化され、自身も『オードトワレ』を記憶に刷り込んでいきます。叔母とシンクロした感情に戸惑う冬花ですが、落ち着いて自分のこころに折り合いをつけるところが大人だなと思いました。若者だったらそうはいかないだろうなと。

 わたしは、男と女のスタートとゴールは全く違っていると思っていて、男は出会いがスタートでゴールが合歓、女は合歓がスタートでゴールが結婚じゃないかと思っています(偏見?)。男は否定しているのですが、わたしは叔母はきっとゴールできなくて寂しかったんじゃないかと、そんなふうに思いながら読んでました。ひどい男だこと!と勝手に憤りました。

 ストーリに合った繊細なタッチの文章でとても上手です。また、抑制された情報量で行間を読ませます。この本の中にある以上の空想を喚起してくれました。おもしろかったです。

エンタングルメント・マインド(Entanglement Mind)

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