読書感想文 『Our Numbered Days』 王木亡一朗(著)

 渡良木益一郎は、昔のバンド仲間とアパートの自室で大騒ぎをしてその結果アパートを出ていくことになってしまった。行く当てのない渡良木夫妻は妻の実家に間借りすることになる。息がつまる……と思いきや、思いのほか気のおけないマスオさん生活が今、始まった。


 主人公益一郎は、過去にインディーズバンドで成功し、そのときの仲間にも恵まれ、今では美人の奥さんをもらってとうらやましいリア充ぶりを見せつけてきます(笑)。しかも益一郎自身の性格も明るくまじめでやさしいときます。もうね、人としてカッコいいです。そんな彼がアパートで大騒ぎして追い出されて、奥さんの実家に転がり込む、というところから物語はスタートです。冒頭のドタバタエピソードで読者のハートをがっちりつかみます。

 両親のいない益一郎には転がり込める実家もなく結局妻の実家に居候となるのですが、嫁姑問題の起こる夫の実家よりも妻がストレス発散できるマスオさんシステムのほうがうまくいくわけで、この物語でも居心地のよい大家族が描かれます。サザエさん一家のようなほのぼのとした雰囲気が読んでいて心地よかったです。

 中盤以降は、そんなほのぼのした様子からは想像できないくらい重いエピソードが織り込まれていきます。暗いお話をただ暗く書くのではなく明るさの中にある翳という形で書くことで一層のもの悲しさを感じさせます。一方で、悲しさをそのまま感じさせない明るい雰囲気に登場人物だけでなく読者であるわたしも救われた気がしました。

 渡良木夫妻にはつらい過去があってその負の想念が益一郎のこころの鏡(葛藤?)としてことあるごとに現れます。その度に一筋縄ではいかない人間の闇を感じてハラハラしましたが、最後は家族の力でそれを打ち破り一皮むけた成長を見せてくれました。家族っていいなあって思いました。おもしろかったです。

エンタングルメント・マインド(Entanglement Mind)

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