読書感想文 『仮想美少女シンギュラリティ』 バーチャル美少女ねむ(著)

 お前は誰だ……。ある夜、BMIの研究者だった私は、実験中に美少女に変身していた。お前は誰だ……私は鏡に映る美少女の私に尋ねる。私は答える。私は仮想美少女ねむ。ここにバーチャルユーチューバーアイドルねむが誕生した!


 BMI(ブレインマシンインターフェイス)の実験の産物として生まれた『ねむ』ですが、その誕生には主人公の(母の)出自も関係していた、というストーリーです。在りし日の離島の風景が仮想空間に広がっていくシーンでは、これから謎が明らかになるんだと思ってとてもわくわくして読みました。結局謎ははっきりとしなかった気がしますので、今後明らかにされていくことを期待しています。

 誰もが美少女というイコンに変身することで自己が解放される、それが例えおっさんでも、というのが作者の主張です。確かにみんなが美少女なら差別も争いも減るかも……その身なりに相応しい振る舞いをしようとするでしょうしね。

 私が注目したのは、BMIで仮想空間内のアバターを動かすシーンです。現実世界の身体を拘束して脳の信号でアバターを動かそうと四苦八苦する様子は、まさに金縛りの状態と同じだなあと思いました。金縛りをスルッと抜けるとその先は体外離脱という明晰夢の中でも屈指の素晴らしい体験になりますが、脳信号だけでアバターを動かすのも体外離脱と同じなのかもしれないですね。すでに動物実験では猿が脳波でTVゲームをする、というところまできているそうですから、人間も近い将来、脳波でVRアバターを操作することが当たり前になるでしょう。早く実現して欲しいです(笑)。

 BMIやVRなど近未来では当たり前になる技術をモチーフにしていますのでストーリーにリアリティ、説得力があります。一方で、ねむが降臨するところや誕生の理由などは若干ファンタジーの味付けもあって好みが分かれるかもしれません。サイエンスフィクションではなくサイエンスファンタジーの方のSFでした。

 平易な文章で読みやすく、分量も手ごろ(中編)で一気読みしました。おもしろかったです。

エンタングルメント・マインド(Entanglement Mind)

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