読書感想文 『ガーベッジ・コレクション』 杜 昌彦(著)
人気アイドル百地玲奈は筋金入りのネット中毒だった。彼女はいけ好かないアカウントの青年を執拗にネットストーキングして貶めていく。次第にエスカレートし、ついに実際に顔を合わせるところまでいく。彼女の何がそうさせるのか。(短編『魂の15分間』)
上記の短編が一番おもしろかったです。人気アイドルの心に潜むどす黒い狂気をコミカルに描いています。去年の文學界新人賞の『逃げ水は街の血潮』を彷彿とさせますが、こちらのほうが早いですしどことなく上品に思いました(『逃げ水~』は読んで泥臭い印象を受けましたが、そこが評価されたような気もします)。ネット世界は匿名で行動できる(幻想なのですが)ことで攻撃的になる人が数多くいます。この短編はそういう人の極端な心理状況を表出させてみせました。そのままエスカレートして破滅までいけば物語としてはスッキリしたのでしょうが、そこまで書かなかったのは作者の優しさでしょうか?
児童文学『シュウ君と悪夢の怪物』は、キャラ設定が名探偵コナンとクリソツなのはご愛敬ですね。
メインディッシュの『黒い渦』は、この本の中では急に毛色が変わってダークな近未来SFになります。ノワールです。ヒロイン(?)のトリコは、いいとこのお嬢さまなのに破滅的というキャラクターです。実に生き生きとしています。そういえばこの作者の別の本にも似たようなヒロインがいましたね。作者はこういうキャラが好きなんだろうなと思いました。この作品は他と比べて独特な作りで、場面転換が曖昧で情景描写が濃く(笑)、ストーリーを追うのが大変でした。普通なら途中で読むのをあきらめるのですが、なぜか心を捉えて離さない文体で最後まで読んでしまいました。理解できたかどうか自信はありませんが、それでもおもしろかったです。
ガーベッジ(ごみ)と謙遜したタイトルですが、そんなことは全然ありません。消費財としての本とは一線を画す存在感のある本です。じっくり読書に取り組むのに最適と思いました。
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